【心を傾ける】アナログの逆襲/非効率がもたらす恩恵

 

デジタルに囲まれる現代生活で、

私たちはもっとモノに触れる経験、人間が主体となる経験を渇望している。

商品やサービスに直に触れたいと望み、

多くの人がそのためなら余分な出費もいとわない。

たとえ同じことをデジタルでするよりも、手間がかかって高額でも。

 

時代に逆行する。
 

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このブログでも何度か取り上げているが、

アナログなもの、テクノロジーに逆行したものに魅力を感じるときがある。

自動化が進む現代において、

「あえて人の手でやること」にこだわったり、

最新の技術よりも、古い技術を好んだり。

 

「早くできる」「簡単にできる」= 効率的なこと よりも、

「時間がかかる」「難しい」= 非効率なこと に惹かれる。

 

効率よりも非効率を選ぶことは、一見して不合理にみえる。

でもどうしてか、非効率を選ぶことが少なくない。

 

復権の兆し

 

冒頭の引用はデイビッド・サックス『アナログの逆襲』から。

 

Amazonの内容紹介には次のようにある。

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なぜいまアナログなモノや発想が、世界中で再注目され、ヒットしているのか?

・新世代------「リアルなモノや体験」が好き
・GAFA(デジタル有力企業)------「アナログな発想や創造性」を重視
・仕事や教育------「人間的な共感・コミュニケーション」の再構築

デジタルの先にあるアナログへーー
アナログの隠れた力を明らかにし、大転換の深層を読み解く超話題作!

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少し後に、本書の一部を紹介する。

 

贅沢な体験

 

なぜ、アナログなものに魅力を感じるのか。

ひとつには、次の理由がある。

 

面倒くさいは、楽しい。

 

例えば、MT(マニュアルトランスミッション)車の運転。

 

AT車と比べて、MT車は「自分の手で動かしている」感覚が強い。

正直、AT車の方がラクだけど、運転していて楽しいのはMT車。

滅多に運転することはないけど、すごく楽しい。

 

以前、こんな記事を書いた。

ここで僕は、次のように述べた。

AIとBIが社会に浸透し、「考えることも、働くことも、しなくていい」世界が出来上がったら、僕たちはどのように生きていけばよいのだろう。

「自分の手で何かをすること」が、「自動化に身を任せること」よりも贅沢な体験になる。そんな未来がくる気がしてこないだろうか。

 

これを、車について考えてみる。

仮にずっと先の未来で、ほぼ全ての車が「自動運転」になったとする。

そこでは、MT車はおろかAT車でも「自分で運転」することが贅沢な体験になる

 

<例えば、こんな未来>

自動運転の普及により、交通事故の件数が飛躍的に減少。

「自分で運転する」場合には、自動運転と比べて税金が割高となり、

自分で運転するという行為は「贅沢な経験」となる。

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こんなことが、現実にあり得るかも知れない。

 

もうひとつ。

面倒くさい=手間がかかる、という意味にも取れるけれど、

大体において、手間がかかるものは品質を維持しやすい。

以前にも記事にしたけど、コーヒーとか、革製品とか。

 

特に食に関しては、「いかに手間をかけるか?」という点が味に如実に顕れると思う。

ちょっとお高めのフレンチを食べに行ったときの、あの美味しさ。

素材の良さも大事なんだけど、なんといっても手間がかかってる。

(下処理だったり、低温調理だったりでとにかく時間と手間をかける)

 

アナログの逆襲

 

さて、冒頭に引用しデイビッド・サックス『アナログの逆襲』だが、

本書のなかでは様々な「アナログ」について語られる。

その一部を紹介する。

 

 ◆レコードの逆襲

 

誰に訊いても、レコードは”もっとよい”製品を作る産業に”座を奪われて”死んでいるか、よくても、古風な趣のある人工物として博物館か骨董店で誇りをかぶっているはずだった。しかし、そうはならなかった。デジタル革命が完結するかに見えたまさにそのとき、社会の広い範囲で復活したのだ

(ドミニク・バートマンスキおよびイアン・ウッドワード著『ビニール:デジタル時代におけるアナログ・レコード』)

 

アメリカレコード協会によれば、2007年に99万枚だったアルバム出荷数は、2015年に1200万枚以上へと驚異的な伸びを示し、レコードの売上は前年比30%以上も伸び、広告支援ストリーミングの収益を上回ったそう。

 

1.レコードは死んでいなかった:

 オーストリアのターンテーブルメーカー「プロジェクト・オーディオ・システムズ」を支えた主な顧客は音の忠実度に取り憑かれたオーディオファン、組織に反発する若者、ドイツのジャングルDJ、裕福なコレクターなど。彼らがニッチ市場を守ったため、多くのレコード店、プレス工場、ターンテーブルメーカーは生き延びた。

 

2.デジタルによって助けられた:

 レコード市場のニッチ化が加速して、レコードの売買の場はインターネットに移った。MP3の登場はレコードよりもCDに打撃を与えた(CDはデジタル・ファイルに勝る本物の音も、美的なメリットもない)。形のない音楽は供給が需要をはるかにしのぎ、わざわざお金を払って聴く者はいなくなった。

 そのあいだに、レコードのかつての欠点が魅力に転じた。レコードは大きくて重みがある。お金と努力とセンスがなければ,作ることも、購入することも、聴くこともできない。購入者は、お金を払って手に入れるからこそ、所有していると実感できる。それが誇りにつながる。

 

本書では他にも、紙の逆襲、フィルムの逆襲、ボードゲームの逆襲といった、

アナログの「モノ」に関することのほか、

仕事や教育など、ビジネスや思考に関する「アナログの力」についても記されている。

このブログでも、追って本書のエッセンスを紹介できたらと思う。

 


おわりに

 

面倒くさいを楽しむ、という点で考えると、

ゲームソフトなんか特にその傾向が強いかと思う。

僕は物理的なゲームソフトもダウンロードソフトのどちらも所有しているけど、

やっぱり、物理的なゲームソフトは良い。

所有している感じもそうだし、ソフトを入れたときの、

あの高揚感というものが、ダウンロードソフトでは味わえないから。

 

とはいっても、部屋のスペースも限られているし、

モノばかり増やすことはできないけれど。

 

それぞれの良さは理解しつつ、

大切なものは、やっぱりモノで持っておきたい。

 

本日はここまで。

 

  

<引用>

「デジタルに囲まれる…」 デイビッド・サックス『アナログの逆襲』