「いっせいトライアル」にみるフリー戦略について/「進め!キノピオ隊長」で遊んで思うこと
経済学の教育をちゃんと受けた者は、本当に「タダ」のものなどないことを知っている。手に入れるものには、何かしらの方法で代金を払うことになるのだ。
Nintendo Switch Onlineの期間限定イベント
「いっせいトライアル」で遊べる「進め!キノピオ隊長」。
2019年8月11日 18:00までの期間限定。期間後にもっと遊びたい人のために、8月19日までのセール実施中。ダウンロード版を30%オフの2,980円で購入できる。
元々はWii Uで発売されたこのタイトル、
知ってはいたけど、プレイしたことはなかった。
ちょっと遅れたけど、プレイしてみた。
これが、予想以上に面白い。
優れたゲームデザイン
「進め!キノピオ隊長」。
・シンプルな操作
・説明不要な分かりやすさ
・適度なやりこみ要素
良いところを厳選すると、この3つ。
特に2番めの「説明不要な分かりやすさ」が良いね。
操作方法のチュートリアルはないけれど、
電源を入れて数分もあれば、基本操作を理解できる。
(電源を入れてすぐ、というのがポイント。冒頭のムービーシーンも、非常にコンパクトにまとめられていて、テンポが良い。)
多くのアクションゲームには「ジャンプ」があるが、
キノピオ隊長には、それがない。
ジャンプがない代わりに、上下移動はハシゴだったり、
フィールドのギミックだったりで対応する。
アクションを極限まで削ぎ落としたことで可能となった
「説明不要なわかりやすさ」。
「情報量」を意図的に少なくしているゲームデザインだな、と思う。
1ステージあたりの収集アイテムも、基本的には
「スーパーダイヤ」3つだけ、というのが嬉しい。
(やりこみ要素は多ければ多いほどいい!という人には物足りないかも知れないが)
ステージ選択画面だけで、全ての「やりこみ要素」を一覧できるのが良い。1ステージが小さく、短いからこそできること。
コンシューマゲームではあるけれど、スマホゲームの手軽さに寄せてある、
と言ってよいと思う。
このシンプルさは、ライトユーザーにとっては嬉しい。
さて、今回の話はゲームのことだけではなくて、
「いっせいトライアル」に見られるような無料のキャンペーンの
ビジネス的な側面の話を少しだけしようと思う。
任天堂の「フリー戦略」について
任天堂がこうした「フリー(無料)」戦略のビジネスを本格化させたのは、
スマートフォン向けアプリに参入し始めてからだっただろうか。
「体験版ではなく、製品版を無料でプレイできる」という点では、
2014年に「ワンダフル101」が期間限定で無料プレイできたことを思い出す。
フリー戦略としての「いっせいトライアル」。
今回のこのキャンペーンの、目的は何なのか。
それを考える前に、まず「フリーのビジネスモデル」についてのおさらいをしよう。
もう10年前になる名著、
クリス・アンダーソンの『フリー』を参考にして。
無料から利益を生み出す「フリー」のビジネスモデル
クリス・アンダーソン著『フリー』では、
フリーのビジネスモデルは、大きく四種類に分けられている。
1.直接的内部相互補助
2.三者間市場
3.フリーミアム
4.非貨幣市場
それぞれ、かなり大雑把に説明すると:
◆1.直接的内部相互補助
これは、例えば
「DVD・ブルーレイソフトを2枚買うと、3枚目が無料! 」といったモデル。
英語では「Buy 2 get 1 free」。数値はキャンペーンによって様々。
他の身近な例だと、ドミノピザの「1枚買って1枚無料」が挙げられる。
◆2.三者間市場
これは、例えばテレビやラジオ。
利用者・提供者とは別の第三者が費用を負担するモデル。
利用者=視聴者 / 提供者=テレビ局 / 第三者=CMのスポンサー
◆3.フリーミアム
これは、例えば試供品。
もっと身近な例としては…スマホの無料ゲーム。
はじめに、商品やサービス(または、その一部)を無料で提供する。
その中から、一部の人が商品を購入したり、
有料サービスを利用したりすることで利益を上げるモデル。
◆4.非貨幣市場
先に挙げた3つとは異なり、金銭的な取引から外れたもの。
対価は金銭ではなく、世間からの注目や評判、社会的な評価、無形の報酬など。
さて、今回の「いっせいトライアル」は、
言うまでもなく3.の「フリーミアム」。
これが分かったところで、その目的を考えてみよう。
「いっせいトライアル」の目的
個人的には、次の2つが当てはまるかと思う。
1.フリー戦略のサンプル収集
サクッと考察する。
◆1.フリー戦略のサンプル収集
「キノピオ隊長」だけに留まらない、他のゲームのフリー化を含め、
サンプルを収集する目的があったのかな、と思う。
フリーのゲームといえば、スマートフォン向けアプリ。
任天堂だと、FEHやドラガリアロスト、どうぶつの森ポケットキャンプなどが
代表的なアプリ。
任天堂の社長は、スマホ向け事業を収益の柱にすると明言している。
ゲーム機だけでなくスマホにも展開すると、ゲームのキャラクターを世界へ普及する力が格段に高まる。スイッチの販売は現在約60カ国だが、スマホ向けゲーム『スーパーマリオ ラン』は150カ国近くに普及している。時間はかかるが、スマホ向け事業を収益の柱の一つにしたい。複数のアプリケーションで複数分野へ展開しながら大ヒットを狙う
ここから予測できること:
こういうのありそうだなあとと思いつつ、
今年2019年のE3(世界最大のゲーム見本市)はもう終わってしまったので、
あるとしても年末か2020年E3かなあ、といったところ。
スマホ向け事業の収益について、参考になった記事。
「キノピオ隊長」の無料トライアルが始まってから、
YouTubeのゲーム実況プレイ動画が、明らかに増えている。
いまやゲーム実況は、自社のゲームを多くの人に知ってもらうのに、
欠かせないものとなっている。
ここから予測できること:
・「キノピオ隊長」シリーズ続編の発表
・「キノピオ隊長メーカー」の発表
さっき述べたとおり、早くても年末か来年以降になるだろう。
もちろん、出ない可能性もあるけれど…。
(でも、キノピオ隊長メーカーとか絶対面白いやつだと思う)
おわりに
ゲームの話だけしようと思ったのに、
つい現実的な話になってしまった。
と思ってしまうことはあるけれど、
その時代で「楽しいこと」は変わっていくからね。
ゲームのカタチは変わってしまうけれど、
楽しむ心は変わらないようにしたい。
本日はここまで。
<引用>「経済学の…」
テリー・ハンコック(「フリー・ソフトウェア・マガジン」に載せた意見)